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「これなら、優秀な母牛の数や妊娠サイクルに関係なく、どんどん子どもを増やしていけます、受精卵さえ優秀なら、多少能力の劣るメス牛の体からでも、いい子どもが生まれてきますから、問題は、大量に受精卵を採取するのが技術的に難しく、コストが高いということ、いまのところ、受精卵は一個数万円、着床率は5割ぐらいですね」牧場でのんびり草を食べている牛からは想像できないきびしい世界。
おいしい和牛は、最先端の科学技術を駆使し、血統を追求していくことで生み出されていたのだ。
それにしても、選ばれたオス牛は、生涯で10万頭もの子孫を残すことができる。
血統のいいメス牛は、自分の腹を痛めることなく、ほかのメス牛に子どもを生んでもらえる。
では、普通の牛の運命はといえば…、脂肪のたっぷり入った体となって、人びとの舌を楽しませてくれるのであった。
脂肪というと嫌悪感を覚える人も多いと思う。
それは欧米型食生活の浸透による脂肪のとり過ぎが叫ばれているせいもあるだろうし、肥満に悩む人が多いせいもあるだろう。
確かに脂肪のとり過ぎによる肥満、コレステロールや中性脂肪、そして成人病の増加は、数字にハッキリと表れている。
それなら簡単、脂肪の摂取を控えればいいだけのことだ。
「栄養調査をみても脂肪をとり過ぎているのは事実です、しかし、ひとくちに脂肪といってもいろいろな種類があり、不足しがちなものもあるんですよ」最近、頭がよくなる物質として話題を呼んだDHAブームの火付け役、農林水産省食品総合研究所・機能生理研究室長のSさんは、脂肪に対する私たちの認識不足を指摘する。
脂肪には動物性と植物性があることは私たちもよく知っている。
動物性の飽和脂肪酸と、植物性の不飽和脂肪酸だ。
しかし脂肪酸の構造レベルでみると、不飽和脂肪酸の中でも、サラダオイルに含まれ、体によいとされるリノール酸は「n、6系列」、オリーブ油に含まれるオレイン酸は「n、9系列」というように、さらに細かく分類されるそうだ。
「簡単にいうと、何度で固体から液体になるかという融点の違いがあるんです。
動脈硬化をふせぐ脂肪動物性脂肪は常温では固体ですが、植物性脂肪はほとんどが液体です。
ところが魚貝類の脂肪分は、動物性に属しながら常温でも液体なんです。
そういう意味では、大きく動物性と植物性、魚貝性と分けてもいいと思います」魚貝類に含まれるDHAやEPAという脂肪酸は「n、3系列」。
融点はなんとマイナス44度以下だそうで、高度不飽和脂肪酸と呼ばれている。
これらの脂肪の違いは、私たちの健康にどのように影響しているのだろうか。
「脂肪分はおもにエネルギー源として消費されますが、残ると体内に蓄積されます、動物性脂肪は脂肪分を血管内に増やしてしまうのです、これが心臓病や脳卒中をひき起こす危険性を高め、成人病全般にも悪影響を及ぼしています」人間の体には動物性脂肪より植物性脂肪、特にリノール酸がいいといわれているのは、そういう理由があるからだ。
「リノール酸には、確かに血中コレステロール値を下げる効果があります、しかし最近の研究では、リノール酸のような『n、6系列』の不飽和脂肪酸のとり過ぎによって、動脈硬化以外の疾病をひき起こすケースが増えているとの報告があります、そのなかには特にがんが含まれているんです、だから、リノール酸をたくさんとっていれば大丈夫という発想は危険だと思いますね」私たちは、体に悪いといわれれば頭ごなしに敬遠し、体にいいといわれれば、多ければ多いほどいいとばかり、どんどん摂取してしまう。
しかし、過ぎたるは及ばざるがごとし、なのだ。
「適正摂取量を見極めることが大切ですね、リノール酸が含まれる油の目安は総エネルギー量の1%程度だから、一日に2000カロリー摂取する人なら、20カロリーをリノール酸からとる分には問題ありません、重さに換算すると約2グラムです、ところが現在、日本人はあるデータによると15〜20グラムも摂取しているんです、適正量の10倍は、いくらなんでもとり過ぎ、健康にいいわけないですよ」そこで注目されるのが、高度不飽和脂肪酸のDHAやEPAである。
これらは背の青い魚、たとえばイワシ、アジ、サバ、サンマ、カツオといったものに含まれている。
現状ではリノール酸の「n、6系列」が多過ぎるあまり、魚貝性の「n、3系列」が不足気味であるという。
「魚貝類の脂肪から作られる物質は、生体内でバランスをとりながら血小板の凝集、動脈壁の弛緩と収縮、血液の粘り気の調節などの働きをします、これができるのは青13系列』の脂肪酸だけなんです。
DHAなら一日0.5〜1グラムはとってほしいですね」ただし、DHAやEPAは酸化しやすいという難点がある。
体内に過酸化物が増えるとがんや動脈硬化、老化促進の原因になるという説もあるのだが…。
「それは大丈夫、私たちの体内には過酸化物を取り除くシステムが、ちゃんと用意されているんです、その能力は、できる酸化物に対して十分ありますから心配はいりませんよ」ちなみにサンマ一尾を食べると、DHAを約1グラム摂取できるという。
「DHAやEPAは熱に強い、だから焼魚にしてもいっこうにかまわないわけです、最近では、DHAやEPAの高純度カプセルが市販されていて、これも上手に利用すればいいと思います、しかし、基本は楽しい食事で栄養をとるのがいちばんですね」醤油、みそ、納豆、塩辛、漬もの、かつお節、みりん、焼酎、そして日本酒。
どれも日本の食卓で、和食ならではの味わいを演出してくれるものである。
「日本人ほど食のなかに微生物を巧みに取り入れてきた民族は珍しいんじゃないでしょうか。
なかでも日本酒は麹菌、酵母などの微生物を利用して造る、技術的にも最高水準の発酵食品といえますね」国税庁醸造試験所所長のSさんは、バイオテクノロジーの研究を通して、醸造食品の製造技術の向上に尽力する一人。
醸造試験所は、これまで古来の伝統技術に頼ってきた酒の醸造技術を科学的に研究しようと、明治37年に設立された日本でただ一つの酒類に関する国立研究機関である。
日本酒の主原料は、いうまでもなく米、米こうじ、そして水だ。
「酒造好適米というのがありましてね、普通の米に比べて粒が大きいんです、中に白く潤んだ部分があって、小さな気泡が詰まっています、そこに麹菌が入り込みやすいので、酒に向いてるんです」日本酒造りは、玄米を精米する、つまり玄米の表層部を削り取ることから始まる。
白米の玄米に対する重量を精米歩合といい、家庭で食べる米はだいたい92%、酒はレギュラーで70%ぐらいだという。
「米の表層部分にはタンパク質、脂肪、灰分ビタミンなどが多く含まれていて、これらの栄養分は麹菌や酵母の増殖を助けるんですが、多過ぎると発酵が激し過ぎて酒の品質を悪くする、また脂肪酸が多いと、香りの成分であるエステルを酵母が作るのを邪魔するんです、麹菌や酵母の増殖によい条件を整え過ぎず、ハングリーな状態におくのがおいしい酒を造るコツですね」つまり精米すればするほど、香味と色沢のよい、高品質な酒になるというわけだ。
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